地震波と破壊力

三和総合設計

2008年12月08日 07:47

木造伝統構法住宅実大実験に係わってわかったことがあります。地震には大きさのほかに固有周期などの特徴があります。今回の実験では大きく3つの地震波で実験が行なわれました。建築基準法で建物の安全性を検討するときは、建築基準法で定められた模擬波で実験を行い、建物の損傷限界や安全限界を検討します。でも、建築基準法は建物の最低基準を定めているので、実際の地震はもっと大きな被害を及ぼすような地震波を持ったものも多くあります。阪神大震災において神戸海洋気象台で観測された地震波は建築基準法で定められた地震波よりも破壊力は大きく、実験ではこの地震波で建物がどのように挙動するかを確かめることが多いのです。今回の実験でも、この地震波を入れて実験を行なったのですが、結果は、建物は大きく変形するが倒壊することはないことが確かめられました。その後、予定外だったのですが、JR鷹取駅付近で観測された地震波をさらに入力する実験も行なわれました。JR鷹取波と呼ばれている地震波の破壊力はすさまじく、数回の地震波を入力している実験体は無残にも倒壊してしまいました。数回実験を繰り返し弱りきったところにさらに大きな地震波を入れるのですから、倒壊はやむをえないと思いますが、実験体がまったく損傷のない状態で鷹取波を入れたらどうなんだろうと考えると、悩んでしまうほどの破壊力です。一般的に地震の大きさは加速度であるガルという単位で大きさが比較されますが、神戸海洋気象台の加速度のほうがJR鷹取波よりも大きいのですが、実際見たところ破壊力はJR鷹取波のほうがはるかに大きそうです。地震の破壊力は加速度だけでなく、速度、変位なども関係しますし、実験で見たところゆれ方にも大きく関係がありそうです。JR鷹取波の場合、ただ揺れるだけでなく、建物の動こうとする方向と反対方向に大きく変形させる力が何度もかかるようです。大きな地震については、阪神大震災以後もあちこちで起こっています。中越地震で観測された加速度が大きいのに驚いていましたが、加速度だけでは判断できないのだということが、今回の実験で気がついたことです。さて、伝統構法と地震はどうなんだろうということになりますが、自然の驚異に対して、伝統構法だけでなく、すべての建物が耐えづらい地震もあるということを考えなければなりません。今回の実験は、実験の条件の関係で総2階の建物となっています。建築基準法の壁量ぎりぎりの状態にしては、模擬波、神戸海洋気象台の地震波に耐えたのですから優秀だと思いますが、さらに大きな地震となると建て方そのものを考えなければなりません。建築基準法ぎりぎりで建てるのではなく、余力をもって建てる必要があるということです。実際考えると、伝統構法の建物は今回のような総2階の建物は少なく、2階の大きさが小さく、裾野が広い建物がほとんどで、2階の高さも現代構法の建物よりも低いことが多いので、伝統構法の標準形を守っていけば充分強い建物が建てられると思います。今回の実験体では、総2階の建物を各部を強く造ることで補う施工をしましたが、巨大地震ではそういう工夫だけでは問題があると私は思いました。最近、伝統構法の形を伝承しているものの、木柄が小さくなっている建物が多いのですが、そういった建物は問題外でしょう。開口部を大きくとるためには、柱や梁のサイズを大きくするとともに、一階に大きな力が入力されないようなプラン作りもあわせて行なうことが重要ではないかと思っています。仕口や収まりを考え、建物を柳のように柔らかくつくる。この考え方を提唱する大工さんが多いのですが、超巨大地震に対しては少し無理があるのではないかと思っています。建物そのものをまず巨大地震にも耐えられるような計画を行い、耐震要素を充分とり、その上で大工さんの工夫や知恵を入れ込み、仕口や継ぎ手などが破壊されないような工夫を加えるというのが正解なような気がします。伝統構法の建物は、地震に耐えるだけが目的ではありません。日本の原風景に合い、しかも耐久性が高く、自然環境とも両立し、住む人にも優しい。そんな中で地震に耐えるものを造らなければならないわけですから、建築基準法のぎりぎりの耐力要素で建築するのではなく、その土地に優雅に建ちながら地震をやり過ごすようなことも考える必要があるのではないかと思いました。人気blogランキング参加中。クリックお願いします! ↑ の部分をポチッと押していただくだけでOKです。