近くの山の木を使う
近くの山の木を使うということが提唱されています。では、近くの山の木を使うことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。年配の大工さんに聞くと、「家にはその地の気候風土にあった材料を使うのが良い」というように答える方が多いでしょう。私もそう思いますが、今の現状を考えると、すぐ近くの山の木を使うことや、「北側斜面に育った木は家の北側に使う」などといったことはなかなか難しいです。国産材と外材では木の性質は全く違いますから、少なくとも日本の住まいには国産材を使いましょうといったことは異論がないはずです。そうすると、残された面は環境面でしょうか。日本の山の多くは、人工的に植林された檜や杉の林です。農業と同じように手を入れないとだんだん荒れていきます。里山を中心とした人工林は、資源としての価値のほかに環境を保全する意味もあるのです。農業と違い一年周期ではなく、50年、100年といったサイクルになるので「少しぐらい手をかけなくてもいいか」といった感じで放置されてきています。しかし、このまま放置されると様々な問題がおこることや放置されている森林も伐採に適した時期を迎えるようになり、利用方法を考えなくてはならないことから、近くの山の木を使うことが叫ばれるようになりました。
このように考えると、住まい手は、環境のために近くの山の木や県産木材を利用するのかということになります。優良な産地からいくらでも国産材が送ってもらえるので、別に近くの山の木でなくてもいいじゃないかということも考えられます。しかし、実はそうではないのです。県産木材を使うということは、顔の見える関係を重視するとうことです。いくら良質な木材であっても、遠くから仕入れる場合、質がよいか、コストが安いかというだけになります。住まいづくりを突き詰めて考えると、木材はいろいろな長さ、大きさ、化粧材、一等材、曲がっている材料など様々な要求をしたくなります。限られたコストの中で、質を落とすことなく良い住まいをつくろうとすると、ひとつひとつのことがらに対し、しっかりとした考え方で対応していく必要があります。このような住まいづくりには、顔の見える関係、つまり、いつでも充分な対話ができる関係が必要なのです。視点を変えてみると、職人さんについても同じです。腕の良し悪しももちろん大切ですが、顔の見える関係が重要です。
私はいつも住まい手の皆さんに言っています。「県産木材を使いましょう。また、県産財である職人を使いましょう」。近くの山の木を使うことと気心の知れた職人さんを使うことは全く同じ意味を持つのです。