琵琶湖の内湖

三和総合設計

2006年01月03日 09:07

今日、新聞折込に毎月入る滋賀県の広報誌「滋賀プラスワン」が入っていました。

その中の内容に「琵琶湖の内湖再生を目指して」という記事があります。
「内湖」ってなんや?という方も多いのではないかと思います。

内湖というのは琵琶湖のまわりにある小さな湖や沼のことをいいます。
琵琶湖と水路がつながる部分にある内湖はコイやフナなど多くの魚類の産卵、成育の場所で、波の影響の少ない水際には、水質浄化に役立ち、鳥類の営巣・成育など生態系を保全する役割のあるヨシが生育しているのです。
また、この内湖は洪水調整機能もあるのです。

湿地保全のための国際的な仕組みとしてラムサール条約があり、琵琶湖も平成五年に登録されたのです。

このように内湖を再生することは良いことなのですが、なぜ、内湖がつぶれたのでしょうか。この県の広報誌にはそのあたりは記載されていません。
内湖は琵琶湖総合開発という国の事業で、渇水時の水の取得のために多くはつぶれたのです。現在では、琵琶湖の周囲は、コンクリートや道路で囲まれています。
一見しただけでは、まだ浜辺などが残されている部分も多くありますので、気がつかない方も多いと思いますが、実態はそういうことです。

滋賀県では、近年、内湖の重要性やヨシの水質浄化の重要性などに着目するようになり、いろいろな事業を進めているのです。もちろん悪いことではないのですが、自分たちで破壊して自分たちで本来自然に生育するべきヨシなどを植えたりしているのです。

このように、経済優先でよく考えないで進めた事業や進めようとしている事業による悪影響は計り知れないところがあります。
琵琶湖空港は断念しましたが、新幹線の栗東駅は県民の多くが疑問視しているにもかかわらず進めようとしています。

問題は一旦失ったものを再生することは、非常に困難を極めるということです。
京都の市電も私が大学生のころに廃止されたと思います。
そのころ、建築学科で都市計画を専攻していた私はちょうど公共交通と街並みに関する卒論を書いていました。
研究者の中(経済学者ではなく建築系の学者)では、市電の果たす役割の重要性が語られていましたが、あっさり、目先の経済性を優先し、市電は廃止されてしまいました。
最近になって、京都市で市電などの公共交通の果たす役割を見直そうという動きが出ていますが、車中心の社会形態が形成される中で、非常に困難な状況だと思います。

建築(住宅)の世界も同じことが進もうとしています。
低価格の住宅を求めるがあまり、住まいの本質的なあり方、伝統的な技術の重要性が無視されようとしています。
一つは日本の山の問題。利用されずに放置されれば、再生には少なくとも50年以上かかると思われます(それでも再生できれば良いのですが)。
二つ目は伝統技術の問題。伝統的な技術は、人件費が高くつくという考え方でどんどん捨て去られようとしています。
しかし、耐久性のある建物の建設、住宅の修繕の技術の維持を考えると無視できないものです。

琵琶湖の内湖や京都の市電などと同じようにその重要性を訴える人々はあちこちにおられますが、全体としては牛丼の宣伝ではありませんが「安い、早い、うまい」の世界で進んでいます。

その重要性は時間が経過しないとわからないのでしょうか。
時間が経過した後では遅いこともたくさんあるのですが・・・・。