今日は、木造住宅の構造計算についてお話したいと思います。
今まで、ブログのなかでも、構造計算のことについては少しずつお話してきました。また、姉歯問題でも構造計算の問題点が指摘され、一般の方々にも構造計算という言葉が理解されるようになって来ましたが、まだまだ本当の意味での構造計算を理解していただいているとは思えません。
木造2階建までの建物は建築基準法で構造計算をおこなわず、簡易な筋かい計算でかまわないというようになっています。
これは、法律が施工される前から大工さんが住まいを建設してきたことに配慮するもので、今までたくさん建てられてきた住まいが大丈夫だから、今後も大丈夫でしょうというあいまいなものです。構造計算をおこなうためには手間がかかりますから、同じような建物を今さら構造計算をしなくても良いのではという考え方もありますが、法律が制定された当時と最近では状況がまったく違ってきています。
昔から大工さんを中心に建てられて来た住まいは、四つ間といって田の字型に和室が配置され、2階が小さい若しくは同じような間取りの建物というのがお決まりでした。
柱や梁のサイズも大きく、差し鴨居などという、内法材であり構造材であるような耐震要素がたくさん存在する耐震的に余力がある建物が中心でした。
しかし、法律が施工された以降は、住まいが商品化し、柱や梁のサイズも小さくなり、間取りも大きな居間を一階に配置し、寝室や子ども部屋を2階に配置するなど、耐震的には非常に危険な建物が多く建てられるようになっています。
そういう中で大工さんや工務店の既得権を守るためや木造知識の乏しい建築士の状況を考え、そのまま法律は放置されているのです。
また、建築基準法は建築物のあるべき姿を定めているわけではなく、最低の基準を定めているということはあまり知られていません。最近の耐震偽造マンションなどは問題外ですが、建築基準法をぎりぎりでクリアーしている建物では長い将来の耐震性は疑問が残るのです。
構造計算が不要であっても、簡易な筋かい計算をするからいいじゃないかという声もありそうですが、簡易計算では正確に建物の重さを計算したりしません。ざっくりと重い建物と軽い建物の二通りに分けるだけで、さらに、積雪の荷重などはまったく考えませんから、雪が多く降る地域や降らない地域でも降雪が多かった年などは危険な状況が考えられます。
私たちは、法律に規定されていなくても、必ず構造計算をおこないます。
構造計算をおこなうのは単純に法律をクリアーすることや申請の許可を得るためではなく本当に強い建物をつくるためなのです。
構造計算を正確に行なうと、通常、今建てられている住まいの耐震要素では不足になることが多いのです。耐震要素をしっかりととって、なおかつデザインもよくプランも優れてる建物を提案するのが私たちの使命なのです。
有名な建築家などは構造を無視したガラス張りの住まいを設計しますし、ハウスメーカーの営業マンなどは素人であることをよいことに、お客さんの要望をうまくこなさず、危ない構造計画のプランをどんどん提案していきます。
こんなに危ない建物が、法律では構造計算が不要であるという一文で建てられていっているのです。
構造計算は、コンピュータに間取りを入れれば自動的に計算されるのではありません。
設計者があらかじめ必要な耐震壁などをプラン作成の際に配置し、それを基に計算をして安全性を確かめるのです。ですから、構造計算のソフトを導入すれば安全な建物ができるわけでもないのです。
構造計算を何度も繰り返すことにより、安全な建物と安全でない建物が判断できるようになるのです。これは、大工さんが今まで建ててきた建物の安全性を自分で感じ取れるのと同じなのですが、前にも書いたように、経験のない少ない建物や条件の違うたてものを不正確なデータで判断することが問題であるだけなのです。
いつも書いているように、国産材を使った日本の大工技術を駆使した住まいは、住む人にも環境にも優しく、造り手も誇りが持てる「三方よし」の建物ですが、建物の持つ良さをより活かすためにも、しっかりした科学性も加えてより良いものとしていく必要があると思っています。