再び耐震偽造問題について
今日の新聞社説に耐震偽造の問題について載せられていましたので、再び一言。
札幌市で二級建築士が構造計算を改ざんしていることが新たに発覚しています。下請で仕事をしているので二級建築士と表現するのが妥当なのでしょうか。一級建築士の事務所でも建築士の資格を持たない人が建物の設計を担当したり、計算をしたりします。これは違法でもないし、その担当者に能力があり、管理する建築士がしっかりとしたチェックを行なっていれば特に問題はありません。
ただ、今回のように建築士事務所が業務を外注するのですから、外注先として二級建築士しか持たない方に発注するというときは、よほどその能力を買っている場合しか考えられません。なぜ、能力も不足し、資格もない人に外注したのでしょうか。そちらのほうがもっと問題視されるべきだと思います。
設計や計算の外注というのはいろいろ問題があります。外注先に充分な能力があっても元請と下請の意思疎通がうまくないとさまざまな問題が起こります。
私たちの事務所は木造住宅を中心に設計を行なっていますが、木造2階建までなら法律で構造計算を求められていませんが、必ず構造計算をおこなっています。それは、法律だけに頼って設計を行なうことの問題を感じているからです。一般的に構造計算は外注することが多いのですが、私たちは自社で必ず計算をおこないます。なぜかというと、構造設計者は木造の細かな技術がわからない方が多いからです。たとえ一級建築士の資格を持っていても知識がないというケースはいくらでもあります。
いろいろな問題が起こると、その対策が練られるのですが、資格や研修、登録など問題解決の本質には届かない対策ばかりが出てきて、その対策が実施されることにより、他の問題が発生することの方が多く、今回もそのようにならないか心配しています。
構造計算ソフトによって耐震強度の数値が違うことや許容応力度計算と限界耐力計算による計算結果の違いなどが指摘され、構造計算の安全基準を早急に統一させるべきであると書かれていましたがとんでもない話だと思います。
そもそも、構造計算というのは建物の安全性を何らかの基準で確かめようとするものです。計算に乗せるためには建物をモデル化したり、簡略化したりして計算します。そのため、その考え方によって違いが出てくるのは当たり前のことです。
また、限界耐力計算は今までの許容応力度計算で計算しにくい建物や制度が落ちる場合のために開発されたものです。ですから、許容応力度計算でNGになった建物が限界耐力計算でOKになってもなんら問題はないのです。そのようなことがわからない人々のなかでの議論で話が進められるのが非常に怖いです。
建物の挙動というのは建物の性質によって違ってきます。それを一つの考え方で統一しようと考えること自体が無理があります。
限界耐力計算ができるまでは、伝統的な日本建築はほとんどが建築基準法でNGという判定になってしまいました。しかし、新しい計算方法で一応安全性が評価できるようになったところです。そこに、素人でもわかるような計算基準というものを持ち込むと、日本の技術がさらに低下し、日本の文化も失われて行くことになります。
いつも同じ事を書きますが、建物をつくることにより「金儲けをしてやろう」という考え方を制限する方法を考えないと同じことの繰り返しです。
また、技術のない設計士を排除することも大事です。しかしながら、建築士会などが提唱している方法はまったく意味がありません。建築士会の中心的な方々でも設計能力の不足している人は多く、「今資格を取得している方は、一定の研修を受ければ自動的に。。。。。」という既得権の考え方がある以上、効果がないのは明らかです。
世の中が、本当に建築士の「設計能力」の必要性を認めない限りいつまでも変わることはないでしょう。