手加工と工場プレカット

三和総合設計

2008年01月27日 09:06

昨日、奈良で設計監理を行なっている住まいの木材をお施主さんといっしょに見に行ってきました。




建設地は奈良県の上牧町(法隆寺の少し南の地域)で、施工をお願いする工務店は大阪府の八尾市の工務店さんです。

この工務店さんは、京都府の美山町の杉材をいつも林業家と一緒に使っている方で、今回も美山の杉材を中心に使っています。

加工はいつものように手加工で、長ほぞ込栓、金輪継ぎ、追掛け大栓継ぎなど伝統的な仕口や継手を使ったものです。
ただし、住まいは伝統構法そのものではなく、現代の住まい方にあわせようとしたもので、昔ながらの伝統構法とは違うものです。




そんな中でも加工は手加工。
工場のプレカットも加工技術があがり、伝統構法に近い継手の加工も行なえるようになってきているというように聞いています。

それでも加工を手加工で行なうのはなぜでしょう。
木の性質、状態を見ながら加工するということが大切であるということが第一番目にあげられます。
機械加工でモルダーを掛ければ4面が直角になり、曲がりやそりの少ない材料を作ることも可能ですが、木の性質を一本一本見極めながら刻んでいくという作業は不可能です。

自然素材は集成材と違い一本一本性質が違います。
今回は特に柱に背割りを入れないで施工することにしています。
背割りを入れないということは、必ずどこかに割れが入ると考えなければなりません。
その割れを見えない位置になるように予測して刻みを行なうなど、大工さんの細やかな配慮が出来上がりの差になって出てきます。

こんなことは工場プレカットでは不可能ですよね。

手加工が大事であるということの理由はもう一つあります。
手で加工するという技術は、後に建物を修繕すると言う技術につながるのです。
ものをつくったことがある人だけが、ものを直すことが出来るのです。

工場でプレカットされた建物を組み立てる大工さんが、将来建物の修繕をすることが出来るでしょうか。
一本一本自分で考えながら刻んだり、構造材のサイズを決めたり、収まりを考えたり、そんなことができる人だけがものの修繕が出来るのです。

国は200年住宅と言っています。
安易に200年というばかばかしさ、それに簡単に乗っかるハウスメーカーのばからしさを感じますが、長持ちさせようとするほど修繕の技術が大切なことは、法隆寺を代表とする日本の伝統建築が物語っています。

工場プレカットはお施主さんに安さを提供するというメリットが確かにあります。
手加工はどうしても加工費のぶんだけお施主さんに費用負担を掛けます。
200年という根拠の薄い話は別としても、住まいの寿命を現在の倍にすることが出来れば、手加工の費用ぐらいなんとでもなるのですが、ローンの問題などを考えると簡単に答えが出るものではありません。

工務店の加工場でお施主さんと別れ、現場の配筋を見に行く道中で、工務店の社長さんが「手加工が出来るのは私たちの時代で終わりになるのでしょうね」とおっしゃっていましたが、それで良いのでしょうか。

世の中のものの価値を正確に捉え、それを評価し、社会の資本として残して行くことの重要性さえ考えることができれば不可能なことではありません。

今、世の中で地球温暖化対策が当たり前のようになっています。
住宅の業界でも、値段の安さだけに目を向けるのではなく、本当に大事なものを再認識することが、造り手とともに住まい手の方々にも必要なことだと思います。