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2008年05月24日

技術者の視点

少し前ですが、高校の同窓会の幹事会がありました。

その中で、文系の人間と理系の人間の行動の違いについて話した機会があります。

高校で大学受験を考えるとき、自分の得意、不得意を考え、文系か理系かを考え、大学受験に備えます。
そして、大学に合格し、勉強し、卒業し、社会に出て行くのです。

社会に出た後、行動はどうなるのでしょう。
文系の大学を出て、家業を継いでいる友人がこのように言いました。

僕は会社に勤めているときに、先輩?に言われた。
商品にほれ込んではいけない。
商売を考えると、何が良いものかということを考えると、一番良いもの以外は売れなくなる、又は、売りたくなくなってしまう。
そうなったら商売が成り立たない。
お客さんが買ってくれるものが良い商品なのだと考えなければならない。

一方、技術者が会社やお店を作ると、商品にほれ込んでしまう。
自分が一番良いものを開発し、それを販売しようとすると、他のものは良くないと考え、商売としては本当に細いものになってしまう。

商売と言うものをうまく見た話だと確かに思いました。

私たち設計事務所も、何が一番良いのかを考え、事務所を構えています。
そうなると、仕事がだんだん一つの方向に集約されることになってきます。
それが本望なのですが、事務所経営などを考えると大変なところもあります。

大工職人さんなども同じでしょうね。
最近では、仕事さえあれば自分の技能が活かされなくてもかまわないという大工さんがほとんどになってしまいましたが、本当の大工さんは、住まいはこうあるべきだというしっかりした考え方を持っておられます。
そんな大工さんが続けていこうとい仕事は、手間がかかっても将来も含めてちゃんとしている住まいをつくること。
今ではそういう住まいを求める人が少なくなってしまっています。

いや、住まいを建てようとしている人は良い住まいを求めようとしているのですが、商人である住宅メーカーやビルダーなどの宣伝に惑わせられているのだと思います。

今や住宅産業は技術系の会社ではなく、商人系の会社ばかりだと言うことです。

「木の住まい」と言いながら、木の本当に良いところを活かそうとしている住宅メーカーはほとんどありません。
お客さんがたくさん買ってくれるアイテムの一つに過ぎないのです。

住まいを建てようとする人にとって、本当に住まいのことを考えてくれているのか、それとも住まい手がお金を持って発注してくれることを期待しているだけなのか、それが区別できない状態になっています。
いや、むしろ、商売と考えている会社のほうが、宣伝費をかけたりして、住まい手の方には良い会社に見えてしまうのです。

日本の商売がいつの間にこんな風になったのでしょう。

滋賀県は近江商人の発祥の地。
近江商人は儲けを追及したという話もありますが、考え方の中心は「三方良し」ということです。
買い手良し。売り手良し。世間(環境)良し、ということです。

良いものを行商でいろいろな人に伝えていく。
そこには、商人と職人の連携があったと思います。

最近では商人が職人を駆逐する状態です。
良いものを売るのではなく、良いものに見えるものを声を大きくして売る。
売れなくなったら他のものを売る。
自分が儲かりゃそれで良し。
良いものが無ければ、宣伝で良いものに思わせればよい。

そんな悲しい時代になっていますね。

この間も、ABCテレビで欠陥木の家住宅を報道していました。
一見見れば木の住まい。
設計士が設計監理していました。

しかし、基礎にあたる鉄骨架台はサイズが小さいものに変更され、筋違の量は適当に省かれていました。
でも、その住まいは設計士が手ごろな価格で木の住まいが持てると宣伝し、単純に手抜きがされた建物に過ぎないものでした。

あの番組を見て、設計士の仕事、木の住まいを誤解されるのだろうなと思いました。

本当に頑張って良いものを追求しようとする人、お客さんが好みそうだということをかぎつけ、まがい物を提供し儲けようとする人。
まがい物を売ろうとする人の声が大きい(宣伝にお金をかける)。
このあたりをどうしたらよいのか。

住まい手の方に選択していただくしかないのですが、相手はプロ。いくら勉強しても住まい手は素人。うまくごまかされます。

私たち設計事務所はそんな住まい手のお手伝いをしていくことが仕事なのですが、私たちの世界にも同じような人たちが数多くいます。


技術者、職人などが安心して技能を発揮できる社会はどうしたら取り戻せるのでしょうか。 



Posted by 三和総合設計 at 07:26│Comments(0)
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