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2006年06月26日

設計職人と設計デザイナー

私たちのブログの中で「設計職人」という表現がたびたび出てきます。
私たちは、「設計職人」と「設計デザイナー」を区別して考えています。

なぜ、こんな話をするかというと、昨日、木考塾(木造在来工法住宅を考える会)で「職人に生きる」という題で定例会が開催されたことを受けてです。
設計職人と設計デザイナーの違いをお話しする前に、少し昨日のお話を書きます。



昨日は、近江八幡市のポリテクカレッジをお借りして、木考塾の職人分科会が担当する定例会が開催されました。今年から、木考塾は分科会活動に力を入れていくことが決まり、その第一弾です。(他に分科会は、構造分科会、木の分科会、住環境分科会があります)
定例会はパネルディスカッション方式で開催しましたが、普通のパネルディスカッションとは違い、ロの字型に机を配置し、パネラーも同じ目線の高さで話ができる配慮をしています。また、パネラーの構成も経験深い職人さんばかりが説教をするような感じではなく、職人になって間もない人も含め、さまざまな意見が出るように考慮しています。
工業高校や短大の学生さんも参加され、定例会は非常に有意義なものになりました。
職人さんの話の中心は、厳しさと働き甲斐ということでしたが、私は職人の世界は昔のやり方が色濃く残っていて、良い面もありますが、改善すべき点もあるのではないかと感じました。職人部会は今後も今年で後3回は同じような内容で、意見交換を深めていくようです。
細かな内容については、また機会があれば書いてみたいと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、「設計職人」と「設計デザイナー」の違いです。本当はこれのほかに「設計サラリーマン」もあるのですが、特に重要性を感じていませんので、二つの違いを中心に書いて見たいと思います。
設計を生業としていくのはなかなか大変です。日本の社会では、形あるもの以外に費用をかけることがあまり理解されていません。そういう状況の中で設計料をいただくわけですから経営的には大変なのです。
そのため設計事務所の生き方として「設計デザイナー」という考え方が発生してくるのです。工務店やハウスメーカーがやらないデザイン性の高さを売り物にするというものです。開放的でガラス張りの建物や極端にシンプルで人の目を引くようなデザイン。デザインだけではなく、技術的にも普通ではやらないやり方をわざと採用するなど、人の驚くようなやり方を採用して設計し、住宅雑誌にでも載せてもらい次のお客さんを獲得する。構造的に少々危なくても目をつぶったり、納まりの悪さがあってもデザイン性を強調するなどといったことになります。こういった建物は間取り図を見ただけでは施工の大変さはわかりませんので、有名な建築家の先生の作だからといって、工務店さんが意外と安い価格で請負って泣きをみる。住まい手の方は高いデザイン性を得られるが、時には無茶な部分から雨漏りや不具合が生まれてきたりすることもあります。地震が来たときのことを考えると少し不安もあります。
私たちは、設計者としてそんな生き方をしたくないのです。設計デザイナーを求める人はそう多くありません。お施主さんは全国から求めなければなりませんから、人目を引くようなことを望まれなくてもやって、雑誌に掲載していただくしか継続的な仕事を得られないのです。

私たちが目指す「設計職人」は設計者としてのプロというだけのことです。もちろん設計者ですから、かっこ悪い建物は問題ですが、デザインも他の性能などと同レベルの扱いだということです。
住宅の設計というのは間取りを決めることだと思っておられる方が多いのではないでしょうか。間取りを決めるだけなら、建売屋さんに勤める営業の方でも極端に言えば素人の方でもできる方はおられます。そういう中で間取りを決めながら、構造的な強さも考え、コストを意識し、断熱性などの省エネも考えながら、住んでいる人の個性にあって、将来とも長く住み続けられるもの、将来の増改築も見据えた考え方も入れていかなければなりません。
住まい手の方から要望を聞いたのをとりあえずまとめるだけの第一案はすぐできますが、もちろんすべての要素が完全にクリアされているとはいえませんし、住まい手の方の要望も、何度も繰り返しお話を聞かないと本音がわからないこともあります。こうして2〜3ヶ月かけてまったく無駄の無い、かつ住んで楽しい理想の家を求めようとするのです。出来上がったプランは平面図として仕上げると工務店がサービスで書く平面図とあまり違うように見えないのですが、そこに詰まった中身はまったく違うものなのです。
大工さん、左官屋さん、屋根屋さん、建具屋さん、畳屋さん・・。数多くの職人さんもちゃんとした職人さんなら自分の職能を最も活かせる仕事をしようとしています。設計も同じで、住まいの基本となる仕事を手を抜かずに充分力を入れるということなのです。設計に力を入れない(例えば営業の手段として使う)ということは、器用な素人さんが左官屋さんの代わりに自分で壁を塗ってみようとするのと同じです。もちろん自分でいろいろやってみることを否定しませんが、不動産屋さんや工務店さんハウスメーカーさんなどにおいてサービスで行なわれている作業とはまったく別のものだということです。

先ほども書いたように、私たちが求めようとしている「設計職人」という姿は非常にわかりにくいものですが、設計という重要な作業が住まい手の将来を左右する、施工を開始すればもう後戻りができないという重要性を感じ、他の職人さんと同じく、これからも「設計職人」としてがんばって行きたいと思う一日でした。



Posted by 三和総合設計 at 08:57│Comments(0)
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