2011年01月08日

伝統構法実大実験

皆さんお久しぶりです。伝統構法実大実験

実は水曜日から金曜日の夜まで、兵庫県三木市にあるEディフェンスで伝統構法の実大実験に関わっていました。
この実験は来週も、再来週も続きます。

詳しくは緑の列島ネットワークの関係ページでご確認ください。
http://www.green-arch.or.jp/dentoh/index.html

すでに実験の画像などもアップされています。

この事業の中で私は図面作成と実験日の損傷観察のまとめを担当しています。
図面作成も大変でしたが、当日の損傷観察のまとめは本当に大変でした。
二日間で5回の加振が行われ、その都度多くの設計者や研究者、職人さんなどに協力していただき内部、外部、柱脚の動き、柱の傾斜など数多くのデータが収集され、それをすべて今後の解析のデータにするために整理するのです。

すべての実験は自分の目で確かめましたし、損傷も見て回りましたが、自分では一枚の写真を撮ることもできないぐらいてんてこ舞いでした。
私の事務所に昔、勤めていた川端さんと岡山の女性設計者の和田さんのご協力を得て何とか仕事を終えることができました。
終えたといっても、三週間のうちの一週分が終えただけですが。。。

皆さん、緑の列島ネットワークのページを見ていただいたかどうか解りませんが、建物だけを見るとこれが伝統的な建物なの?と思われる方も多いかもしれません。

そのあたりが勘違いされることが多いのですが、伝統構法の建物を振動台に載せて揺らすことが目的ではなく、伝統構法の建物が将来ちゃんと建て続けられるためのデータを取ることが目的なのです。

確かにこれぞ伝統構法と見える建物を振動台の上に載せて揺らして無事であれば、その実験に使った建物とほぼ同じような建物は大丈夫と考えることもできるでしょう。
でも、伝統構法って日本各地で建て方も違いますし、プランも様々です。

そういう構法や個別の建て方に対応しようとすると、個別の建物を考えるのではなく、将来多くの建物が解析できるようなデータを取ることが大事なのです。
そのため、プランは非常に単純な形にしてあります。
建物の挙動が何によって起こったのか。
建物の柱脚が移動したが、それはどんな原因によるのか。それを把握しようとすると、得たいデータ以外の部分は同じ条件にして変わらないようにしなければならないのです。

今回の実験は平屋の建物でした。
でもこの実験は平屋のデータを得ようとするものではありません。
平屋に見えても載せる荷重を調整すれば2階建てと同じ重さをかけることも可能です。
今回はコンクリート基礎にのせないいわゆる石場建てといわれている柱脚がフリーになっている建物の挙動を確認することが目的なのです。
ですから、無理に二階建てにしたりすると、二階の部分で損傷が起こったりしたものの影響が柱脚に及ぼされたりして、純粋に足元の動きを解析することが難しくなってしまうのです。

第3週目に行われる2階建ての土壁を使った建物も基本的に同じような考え方の実験です。
前2週の実験を踏まえて、できるだけ伝統構法の要素は盛り込むのですが、見栄えは伝統構法の建物とかなり違うのです。
でも、それでいいのです。

実験体の建物は伝統構法の建物とはぜんぜん違うという意見を出される方もおられますが、少々実験の主旨を勘違いされているのだと思います。
また、その方々の多くは、私が伝統構法の建物を建て続けたいという気持ちが非常に強い人が多いと思います。
そういう気持ちは大切なことですが、それよりも国民にとって大切な伝統構法というものを、誰でも建て続けられるということが重要なのです。

実大実験をするよりも、大工を信頼して自己責任で建てられるようにしたほうが良いという方もおられます。
でも、そういう方法をとると、マスコミなどで有名になった方などは依頼して建てようと思われる方々も出てくるかもしれませんが、日本中におられる確かな腕をもった年配の大工さんなどは救うことはできません。

国民が安心して伝統構法で住まいを建てようとするには、一定の基準というものが必要になると思います。
伝統構法を締め付けるような基準ではなく、安心して建てられるようにするための基準、そういった基準作りが大切なのです。

伝統構法の建物は、悪い建物を取り締まるという思想の中で作られている建築基準法のなかでは、あまり改正や基準作りがされてきませんでした。
そこに姉歯事件がおこり、建築基準法の法文を厳格に適用するという中で、締め付けられるようになりました。
伝統構法に取り組んでいた職人さんなどはその経過のなかで基準というものは職人の腕を締め付けるだけのものだと考えるようになったのかもしれませんが、すべてがそうではないということです。

今回の実験は、元京都大学防災研、現立命館大学の鈴木先生が責任者です。
国の基準や法律をつくるという今までの考え方と全く違っています。
本当に伝統構法を活かす方法を探る。
すべての実験がその目的のもとに進められています。

伝統構法を現在何とか建て続けている方々にとっては、早く結果を出して欲しいというところでしょうけれど、大きな目標を得るためにももう少し我慢していただきたいところです。
基準を作るための実大実験など必要ないという声を発するより、基準を作るための研究をもっと長くできるように声を発していただきたいと私は思います。

実験を行うにしてもいろいろなやり方があります。
またその結果をどのように実務に反映するのかということもあります。

でも、その前にちゃんとしたデータを取るということが重要なのです。
伝統構法については、残念ながらそのデータがあまりまだ少ないということなのです。

そのデータを一つずつ積み重ねていくことが、本当に伝統構法を守るということであり、伝統構法を守るということは、国民のために重要なものを守るということなのです。


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